2020年12月30日水曜日

年間ベスト廃盤レコード2020

こんばんは。
みなさまいかがお過ごしでしょうか。
今年も早いもので、残り1日。

 言わずもがなですが、今年はみなさんとてもタフな1年になったかと思われます。僕もそうでした。こんな時節でやはり家にいることが多い1年でした。なかなか以前のように週に何度もレコード店へ足を運ぶのが難しく、オブスキュアな未知の音楽との出会いは難しかったのですが、以前から探していた作品をじっくり選んでネットで注文することが多かったです。
 レコード店に足を運ぶと、ついつい欲しくも無い盤を抱えて家に帰ることが多いのですが、今年はそれ故かなりエッセンシャルなレコード・ディグが出来たと感じます。またトレンド的な流れもストップしたのもあり、家にあった旧譜を聴き直すことも多かったです(自分の家のレコード棚が世界中のどのレコード店よりも自分の好きなレコードが集まっている!)。やはり、明るい音楽や言葉の強い音楽、騒がしい音楽はあまり針を落とす気になれず、自然と静か目な作品ばかり手が伸びていたように感じます。アンビエント/ニューエイジのリヴァイヴァルはこの10年でトレンドのピークを迎えたように感じていましたが、こうした世界もあってかこのままゆったり以前よりもスタンダードな音楽として受け入れられていくような雰囲気も感じます。エチオピアをはじめ、非西洋圏の音楽、音数の少ない静謐なジャズも今年はよく聴いていました。普段集めていた自主盤S.S.W.は、 足繁く店舗に通うことが出来ず、安価で発掘するのが難しくて今年はあまり良い収穫はありませんでした...。

 そんなわけで、毎年恒例ですが、今年入手した中古レコードの中で、お馴染みの定番アイテムから、よく分からないものまで、心に残ったお気に入りの作品をただただ自慢する『年間ベスト廃盤レコード』を書いてみようと思います!



Haruomi Hosono ‎– Mercuric Dance
Monad Records ‎– 28MD-2
1985

 ずっと後回しにしてしまっていましたが今年の成果の1つとしてはモナド観光音楽シリーズ4枚を帯付きでコンプリートすることができました。この辺りの作品、学生時代は3桁でよく見かけたものですが、最近はずいぶん値上がりましたね。あの時に集めておけばよかった...
 モナド観光音楽シリーズのどの作品もお気に入りですが、一番よく聴くのはやはりこちら。数ある細野さんのアンビエント作品の中でも旋律的なフィールが少なくミニマルな印象を受けます。天河社で録音されたA面は現代音楽的な濁り気のない透明感あるサウンドでとても穏やか。水の音が入っているレコードは気持ちが落ち着いてよく朝起きたらかけています。本盤の1曲目「水と光」も、せせらぎとベルの音からなる静かなトラックでお気に入りです。東京録音のB面の頭2曲は、無秩序なバグ的自然さを思わせます。エンディングの「空へ」は、細野さんのアンビエント曲の中でも特に好きなトラック。



Christopher Hobbs / John Adams / Gavin Bryars ‎– Ensemble Pieces
Obscure ‎– obscure no. 2
1975

 Brian Enoが発足させた実験音楽レーベルobscureのカタログ・ナンバー2番。AMMにも参加していたChristopher Hobbs、ミニマル・ミュージックの名匠John Adams。そしてタイタニック号沈没時に混乱する人々のその心を少しでも和らげようと乗船していた弦楽カルテットが、その沈みゆく船の甲板で奏でた音楽を再現した「Sinking of the Titanic」で知られるGavin Bryarsの3名の楽曲を収録したオムニバス形式の1枚。Christopher Hobbsはガムラン風のミニマルな楽曲も耳を引くが、やはりGavin Bryars「1, 2, 1-2-3-4」がお気に入り。この曲は僕の大フェイヴァリット盤、Noahlewis' Mahlon Taitsが2001年にリリースしたEPに収録されている「Tenderly」の元ネタになっているという話を以前聴いてずっと探していた1枚(ある時はあるけど探すとなかなか見つからない、値段がピンキリすぎてなかなか買いずらい類の盤...)。一聴するとゆったりと幻想的な、なんの変哲も無いラウンジ音楽のようですが、この独特の幽霊的な捻れはこんな楽曲プロセスから。演奏者は同じ部屋で互いの演奏を聴きながら演奏するのではなく、各自のスタンダード・ナンバーを収録したカセットテープをヘッドフォン越しで聴きながらそれに合わせて演奏した。偶発的な調和と不調和がゆったり繰り返し波のように行き来するアンサンブルは不思議な夢見心地。チェロにCornelius Cardew、ヴォイスでBrian Eno、そしてギターはDerek Bailey。楽曲的な演奏をするBaileyはタッチの繊細さが際立つように感じてとても大好きです。



Jon Hassell ‎– Fascinoma
Water Lily Acoustics ‎– WLA-CS-70-CD
1999

 Ry CooderがプロデュースしたJon Hassellの99年作。CDオンリーの作品なので、ぜひヴァイナル・リイシューして欲しいところ。今年、特に熱心に聴いていたJon Hassell、Ry Cooder、Blake Mills、Sam Genndel、Duke Ellington、Miles Davis、Eden Ahbez、細野晴臣、ECMがこの作品で様々な角度から紐つくような感覚がリスナーとしてあり、とても興奮しました。
 本作ではトレードマークの電子変調したトランペットは影を潜め、一枚膜を覆った幽玄な深いリヴァーヴに包まれたトランペットが印象的です。どことなくMiles Davis『死刑台のエレベーター』や「So What」のあの印象深いイントロを彷彿させるようなトランペットの質感を覚えました。1曲目は早すぎた霊性音楽家Eden Ahbezの「Nature Boy」カヴァー(彼の『Eden's Island (The Music Of An Enchanted Isle)』も素晴らしい作品!)。Duke Ellington「Caravan」のカヴァーも秀逸。Ryのギター・リック自体はブルース的と言えるかもしれませんが、エキゾチックかつコンテンポラリーで静かな本作のアンサンブルに組み込まれると、やはりBlake Millsの姿を重ねずにはいられません。この8年後ECMからリリースされる大名盤「Last Night The Moon Came Dropping Its Clothes In The Street」もおすすめです!



Jakob Bro & Thomas Knak ‎– BRO/KNAK
 Loveland Records ‎– LLR016
2012

 マイ・フェイヴァリット・ギタリストJakob Broの名作もついに入手。Lee KonitzやPaul Motianなど、びっくりするようなレジェンドが彼の作品のサイドマンとして参加することが多いですが、本作ではフリューゲルにKenny Wheeler、ピアノPaul Bley、ギターBill Frisellが参加。静けさの中に浮かび上がる構築的なアンサンブルで、ECM以前のJakobの集大成的な作品と言えるのではないでしょうか。子供達の聖歌隊を用いた「Northern Blues Variation No. II」や、古いアルバムをめくるような暖かさに包まれるBillとの2本のギターとThomas Morganのベースが絡み合う「Roots」、「Mild」、Jakobの歌声が聴ける(美しい!)少しオリエンタルな「Izu」など、様々な編成のアンサンブルが収録されていますが、もちろん散漫な感じは微塵もなく、戯曲のような流動性が一本の川のようにアルバムを通して流れていきます。このアルバムは僕のバンドが解散した後すぐにCDで買って何度も聴いていました。Thomas Knakがリミックスした3枚目はIDM、エレクトロ(ニカ!)色が強くてちょっと僕はあんまし聴いていません...



Paul Motian Trio ‎– It Should've Happened A Long Time Ago
ECM Records ‎– ECM 1283
1985

 そんなレアな盤ではないですが、これもまた探すとなかなか見つからず...Roth Bart Baronの遠征で広島に行った際にたまたま見つけ捕獲。過去には霊性フォーク好きの間でも知られるベーシストHenri Texierのグループにも在籍しているサックス奏者Joe Lovano、ギターはBill Frisell、そしてドラムスに Paul Motianという変則的なトリオ編成。
 本作で注目すべき点はBill Frisellがシンセ・ギターを弾いています!John Abercrombieがよく使う音色(プリセット音?)で、アブストラクトなプレイを聴かせます。またBlake Millsの話にもなりますが、彼の『Mutable Set』や『Look』で、トレードマーク的に聴かせるシンセギターはJohn AbercrombieやTerje RypdalといったECMのシンセギター使いを連想して、この辺りの作品はよく聴き返したりしていました。本盤収録の「Introduction」なんかはかなり近しいフィーリングを感じます。この時期のBillやTerje Rypdalをはじめヴォリューム奏法をシンセパッドのように滲ませるプレイは僕もとても影響を受けました。


Duke Ellington / Charlie Mingus / Max Roach ‎– Money Jungle
Solid State Records ‎– SS 18022
1962

 オリジナルはUnited Artists Jazzからのリリースでジャケも異なります。John Coltraneとの連名作やピアノソロなど小編成のDuke Ellingtonの作品はどれも好きですが、中でもCharles Mingus、Max Roachも迎えた本作はお気に入り。Duke Ellingtonと言えばスウィングのイメージが強くてこれまであまり聴いてきませんでしたが、ある時Charles Mingus、Sun Ra、Ahamad Jamal、Moondogみたいなラインで(少し無理矢理なラインかもしれませんがニュアンス伝わりますように...)改めてDuke Ellington聴いた時に一気に聴こえ方が変わるような感覚を覚えました。ここに収録された「Fleurette Africain」は、今年めちゃくちゃはまって狂ったように聴き返していました。




Emahoy Tsegué-Mariam Guèbru ‎– Emahoy Tsegué-Mariam Guèbru
Mississippi Records ‎– MRP-099
2016

 エチオピア音楽を再発見するエチオピークス・シリーズで話題になったEmahoy Tsegué-Mariam Guèbruの楽曲をコンパイルしたMississippi編集盤。これは今年一番よく聴いたレコードだと思います。エチオ音楽らしいペンタトニックを中心としたオリエンタルな旋律に、Erik SatieやDebussyを思わせる水彩絵の具が水に滲むような淡い響きがとても美しいです。「Mothers Love」、「Homesickness」あたり本当に素晴らしいです。唯一無二。こんな音楽他に見つかりません!リプレスの噂もちょいちょい海外の掲示板で見ましたが、どうしても今欲しくてそこそこの値段で購入。リプレスされたらもう1枚欲しい!



Ambrose Campbell ‎– High Life Today
Columbia ‎– SX 6081
1966

 激レアというほどではないですが、長年ゆるーく探していた1枚をようやく入手。ナイジェリア出身でその後、英国に渡り40年代に英国で初めての黒人バンドWest African Rhythm Brothersを結成。Fela Kutiも"ナイジェリアにおけるモダン・ミュージックの父"と崇めるAmbrose Campbellのリーダー作。「Ashiko Rhythm」、「Yolanda」はHonest Jon's Recordsのハイライフ・コンピ・シリーズにも収録されていますね。プリミティヴさはもちろん感じさせますが、都会向けといいますか同時期のナイジェリア録音の作品に比べるとだいぶモダンで、僕みたいなタイプのリスナーとしてはポップでちょうどいい湯加減です。コンピ収録曲がやはり素晴らしいですが、パーカッション・オンリーの「Gbedu Drums」、呪術的な(カリプソ経由した明るいDon Cherryというか....)「Treat Me Gently」辺りも耳を引きます!



Stephan Micus ‎– Wings Over Water
Japo Records ‎– JAPO 60038
1982

 ほんの3、4年前までどこでもあったような気がしますが、最近めっきり見なくなったStephan Micus。これもニューエイジ・リヴァイヴァルの影響でしょうか。ECM、JAPOから多くの作品をリリース、世界中の伝統楽器を操り1人多重録音で作品を作り上げる元祖空想民族音楽家(?)Stephan Micus。本作でもエジプトの笛にインドの弓弾き弦楽器、ツィター、ガムラン、ギター、植木鉢など、様々な楽器を1人で操り、プリミティヴかつコンテンポラリーな国籍を持たない不思議な音楽を聴かせます。



Jacques Bekaert ‎– Summer Music 1970
Lovely Music, Ltd. ‎– VR 1071
1979

 Alvin LucierやRobert Ashleyの作品のリリースで知られるLovely Musicからのリリース。Jacques Bekaertはベルギーの音楽家で、タージ・マハル旅行団の面々がベルギー滞在した際にTransitionというユニットを結成しているようです。本作は1970年に森の奥にあるJohn Cage邸(確かウッドストックの住民?)を訪れた際に、それまで経験したことのないような静けさを感じ、その静寂に着想を得て制作された。「19 For Alvin And Mary Lucier」、「23 For David Tudor」といったように、Cageの家で出会った人々の名前が楽曲タイトルとなっている。川のせせらぎといった環境音に、ヴァイオリンやフルート、コントラバス、ヴォイスなどが混ざり合う。アルバム全編、弱音を中心とした静謐なムード。時折ユーモラス。音だけでも充分楽しめる実験音楽。



Blake Mills ‎– Some Where Else
Beware Doll Records ‎– A1 00101
2015

 今年は毎日のようにBlake Millsのことを考えていました。Blakeがインスタに一番搾りの缶を手にしているのを目にして以来、僕の第一ビールは黒ラベルから一番搾りに...。
 本作はSam Jonesの写真集(写真はあまり詳しくないですが、William EgglestonやWalker Evansの系譜的アメリカーナの景色)の付録として付いてくるBlake Mills作品の中でも難関アイテムとされる(?)1作でサブスクでも音を聴くことは出来ず、年のはじめにアメリカの本屋の通販で在庫を見つけ入手。
 アルバム全編インスト。Blakeの得意とするキューバン調のテーマから、Jim O'RourkeやGastr Del Sol『Upgrade & Afterlife』あたりのサウンドを思わせるアメリカーナなどを収録。ギターの出番が多く、彼のどの録音作品よりも、ストレートなギター・プレイを楽しめるのではないでしょうか。枚数も多くないので、見つけたら是非買っておきましょう!


それでは、良いお年を!

岡田



 

2 件のコメント:

  1. 大変勉強になりました。来年も宜しくお願いします!

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  2. 2019年 その2をずっと待ってたら 気が付いたら 2020年!
    待ってました!!

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