2017年5月14日日曜日

Linda Rich ‎– There's More To Living Than I Know So Far


Linda Rich ‎– There's More To Living Than I Know So Far

Inter-Varsity Records ‎– LPS-03498
1969


レア・グルーヴ再発でお馴染みのNumeroが、フォーク/アメリカーナ系の作品を取り上げる『Wayfaring Strangers』シリーズ。その第一弾である女性フォーク・シンガーに焦点を当てた『Ladies From The Canyon』が、今年に入ってアナログ化されました。おお、ようやく...!

コンピ・タイトルはもちろんトラディッショナルとオルタナティブの架け橋的存在。その後のフォーク・シーン象徴する傑作Joni Mitchell『Ladies From The Canyon』からの引用。マウンテン・フォークをベースに、ジャズやロックをはじめとしたコンテンポラリー・ミュージックとも接近したその革新的なサウンドは、オーヴァーグラウンドでも大きな衝撃をあたえ、その後の影響は計り知れませんが、第二のルネッサンスは、街角のカフェや教会でも起きていました云々...という趣旨の企画。

このコンピがリリースされた06年頃と言えば、Linda PerhacsやVashti Bunyanなんかが立て続けに再発掘され、フリー・フォーク/フリーク・フォーク全盛のUSインディーとも相性良く(Vashti Bunyan+Animal CollectiveなんてEPも出ましたね!)、アシッド・フォーク的なものがとっても盛り上がって印象です。コンピ『Ladies From The Canyon』はその中でも、よりローカルな自主盤規模の今聴ききたいサウンドをコンパイルした決定打だったはずです。



アナログ盤はまだ買えていませんが...

そんなコンピ中で、特に気になったのは、Karen Dalton系のスモーキーな歌声に、サンプリングもしたくなるナイス・グルーヴが印象的なShira Small「Eternal Life」(オリジナルは、ゆうに1000ドルは越えるようですが、いつか絶対LPで欲しいです。プレゼント・リストに)と、チェロとフルートによるKronos Quartet的スリリングさを持ったアンサンブルが印象深いLinda Rich「Sunlight, Shadow」でした。



カンザス出身のLinda Richは、クリスチャン系のレーベルInter-Varsityから3枚のアルバムがリリースされており、『There's More To Living Than I Know So Far』が1stアルバムです。ちなみにInter-Varsityは、モダン・フォーク+ソフト・サイケ・デュオJonathan & Charlesが運営していたようです(こちらは期待しないで聴くとまずまず悪くないアルバムです)。


A1〜A4までの自主盤とは思えぬ緊張感ある流れに改めて驚きです。中でもNumeroのコンピでも取り上げられた「Sunlight, Shadow」の幾何学な和声感と、お金がなかったが故に、ベースに見立てたチェロのピチカートとフルートからなるイントロは、まるで良質な室内楽を聴いているようで、10年代の耳で聴いても新鮮に思えます。この曲に関しては歌詞も宗教っぽさは捉え方によってですが、説法臭い印象は余り感じなかったのでC.C.M.苦手な人も聴けるのではないでしょうか。そしてB面も佳曲が揃ってます。個人的にお気に入りなのは、メロウなヴォーカル・ハーモニーと、サビでのコードの仕掛けに胸キュン必至のB1「Man Of Galilee」。
アパラチアン・フォーク〜UKトラッド、下地の幅広さはもちろんですが、やはり、所々で聴かせるイレギュラーなコード感と、センスの良いチェロやフルート、クラリネット使いが(そもそも楽器のチョイスが素晴らしい。アレンジャー/プロデューサー・クレジットは残念ながら見当たらず)、このアルバムを特別なものにしているのかと思います。捨て曲なしです。

さて、そんなLindaさんですが、00年代に発掘された多くのフォーク・シンガーと同じように、音楽サイトの掲示板を中心に捜索がされたみたいですが、いっこうに足取りが掴めなかった模様です。とあるサイトでLindaの弟を名乗る人物からの書き込みがあり、彼曰く"彼女とはもうかれこれ30年以上音信不通で、私たち家族も心配している。何十年も昔にリリースされた姉の音楽に興味を持ってくれている人がこんなにもたくさんいるのに、驚き、感激している。リリースした作品のマスターテープは私が持っているので、もし可能であれば無料で聴けるようにしたい考えている"といった趣旨の書き込みがありました。これが05年くらいの話と記憶していますが、その後、彼女が発見された、音源が解放された、という情報は入ってきません。



A1 There's More
A2 Sunlight, Shadow
A3 Things
A4 Clouds Above
A5 One Day
A6 Tomorrow's Mountain
B1 Man Of Galilee
B2 Song Without Words
B3 The Shadows Sing
B4 Walking With Jesus
B5 The Edges Of His Ways
B6 Come Unto Me


2017年5月10日水曜日

Stephen Whynott ‎– From Philly To Tablas


Stephen Whynott ‎– From Philly To Tablas

Music Is Medicine ‎– MIM 9001
1977


"As most things held so close it can not be recounted to anyone anytime. I know these songs hold the moment that for will never die."

裏表紙に、こんな言葉が記載されていました。言いたい事はフィーリングで分かるような気がするのですが、詩的なニュアンスみたいなのをどう汲むか上手く説明出来る英語が堪能な方いらしたら、コメント欄ででもご教示いただけると嬉しいです...


音楽という時間の経過を記録、そのまま時間場所を問わず再現出来るようになってからもう1世紀くらい経つのでしょうか。6,70年代には録音機材も庶民の手に届かなくもない所まできて、大きなレコード会社からのリリースではない作品も星の数ほど生まれています。
ビッグになりたい!そんな野心を抱えた作品、とにかくBob Dylanになりたかった、友達に配りたい、などなど、いろんな動機で作られた作品がありますが、どれもピュアな表現の音楽ばかりで、そんなレコードを好んで良く手にします。ローカルな6、70年代のフォークに相変わらず焦がれているのは、つまらない欲求や邪念、言ってしまえば大きくなり過ぎたビジネスとは作品自体が無縁に思えるからでしょうか。

そんな作品の中には、もちろん当時話題になってメジャー・レーベルとの契約に漕ぎ着けたもの、はたまた当時売れなくとも後の世代の感覚とマッチしてある時代からはクラシックとして語り継がれるような作品もあります。数十枚プレスしたけれど全く売れず、その苛立からほとんどをフリスビーにした後、叩き割ってしまった自主盤サイケの話もどこかで聞きましたが、その何枚かは市場に回ってたおかげで、後の世代がたまたま引き当てて"これはすごい!"という事になり、リイシューされたのだから、これはなかなかロマンティックな良い話です。

そんな時、誰かに創造れた音楽が、とりわけ記録されたレコードが死ぬ瞬間の事を考えたりもします。声の小さい、ナイーヴで、ピュアな愛すべき音楽たちの事が気がかりでしょうがありません。


音楽家が"このレコードは永遠に生き続ける事を確信している"なんて、レコードに記すのはとても美しいな、という事を言いたいだけです。実際、17年5月10日に、僕がターンテーブルの上に乗せました。



Stephen Whynottがいったい何者か、調べてもよく分かりませんでしたが、本作含め恐らく4枚のアルバムを制作しており、これが彼にとっての処女作のようです。

77年といえば、S.S.W.の時代はとうに終わり、ウエスト・コースト・ロックも瀕死、かつてメインストリームを賑わせた一発屋じゃない人たちの多くはA.O.R.かディスコに舵を切り、ロンドンではパンク全盛といった時代でしょうか。

Neil Youngの1stアルバムを思わせる、ウェルメイドなサイケデリック・フォークを基調に、ジャズ的な内省さを感じさせるリズム・セクション、オーボエやを用いたチェンバーなアンサンブル、そして霊性漂う研ぎすまされた音響感が織りなす、正に今聴きたいサイケデリック・フォークの名作といって差し支えない内容でしょう。時折聴かせる、ECMジャズとも、スピリチュアル・ジャズとも、アンビエントとも言える空間的な仕掛けに目を見張ります。録音はボストン。フィリーじゃないんかい。

このジャズ的なフィーリングに一役買っている、パーカッション・クレジットのRobert Pozarの存在は大きいように思えます。良くも悪くもクロスオーヴァー界のドンといったイメージのBob Jamesの初期のキャリアは、Mercuryからモーダルなジャズを出したり、ESPからエレクトリック・アコースティックなフリー・ジャズ出したりと、かなり実験的でハイセンスな作品が目立ちますが、そのころのBobのバンドでドラムを叩いていたのが、このRobert Pozarのようです。A4、A5の間ではつかの間の夢のように、突如バラフォンのトライヴァルなミニマル・パターンが現れます。Pearls Before Swineなんかもイメージすると分かりやすいですが、アコースティック・ギターをつま弾くイントロの上に、遠くからメディテーショナルな鈴の音が鳴る音楽はその後なにが始まろうとも受け入れたいと個人的思います。

ピアノはもちろん、オルガン、メロトロンも操るDan Fryeなる人物も良い仕事をしています。いわゆるS.S.W.の伴奏にくらべると、かなり抑制されたプレイで、絶妙なバランス感覚の持ち主のように感じます。彼がNeil Youngの初期作品におけるJack Nitzsche的な役割を果たしているのでしょう。オーボエでクレジットされているMichael Kamenは、あのMichael Kamenでしょうか。これまた興味深いです。

プロデュースはStephen Whynott本人と、ベーシスト/レコーディング・エンジニアとしてクレジットされているZed Mclarnonによるもの。ほほう、音響はミュージシャンによるものといわれると確か、楽器やアレンジの兼ね合いを把握しながら的確になされているように感じます。
ちなみに同レーベルからリリースされる次作は、Calico With Stephen Whynott名義となっておりZed Mclarnonはベースだけでなく、チェロやヴォーカルも披露している模様です。これは、気にして見ていますが見かけた事すらなく、いつか欲しい1枚です。

メロディー・メイカーとしては、Tim Buckleyのヒプノティックな雰囲気はそのままに、もっとメロウにしたような、Tony Kosinecにも近い万人受けしてもおかしくないような印象です。純粋にどの曲も素晴らしいです!


A1 Retreat Suite
A2 What Have You Seen
A3 Altitude
A4 Rain Swollen Highway
A5 Nine Day Sunflower
A6 Without Us
B1 Go Around
B2 Snows Edge
B3 Mexican Oil
B4 Oh Boy I've Won The Contest At Last



2017年4月6日木曜日

Saint Jacques ‎– Saint Jacques


Saint Jacques ‎– Saint Jacques

GRT ‎– GRT 30005
1971

"木漏れ日フォーク"なんてあってないような音楽ジャンルの呼称があります。"ぽかぽかとした晴れ空のもと、こんな日には部屋でグータラしてるのももったいない、ちょいと近所の草っぱらにでも出かけ、木陰で寝転び見つめた枝葉の間から、ゆらりと差し込む光にまどろめば、なんだかとっても穏やかな気持ちになってくるような、あの瞬間に、小鳥のさえずりと共に聴こえてきそうな音楽"という、なんともくどい言い回しですが、そうとしか言い得ないような音楽があります。例えばHeronの2枚のアルバム(オリジナルはジャンクのワゴンRくらいしますが、ありがたい世の中で今はapple musicで聴く事が出来ます!)なんて正にそんな呼び方がしっくりくる作品で、先日まさかの来日を果たした彼らがインタビューで"日本ではそんな風に呼ばれているんだね!なんかその呼び方しっくりくるよ!"なんて話をしてたのは印象的でした。
同じような音楽ジャンルでサンシャイン・ポップは初期のThe Byrds(オキャンなガールポップなんかもさんな風に呼びたくなってしまう事もありますが...)、木漏れ日フォークはCSN&Y「Our House」派生と個人的に捉えています。この辺はまあどっちでもよいのでしょう。


本盤はとある機会があって一度聴いた事があってずっと探していたCSNフォロワーの唯一作で、こちらも"木漏れ日系フォーク"という言葉がしっくりときます。
全曲オリジナル。作曲クレジットにDavid Kaufmann 、Peter Derge 、Rolfe Wyerとありますので、ジャケに映るいかにもフラワームーブメントの残党といったルックスのムサい3人の男は、それぞれいずれの3つの名前に当てはまるのでしょう。ゼベダイの子のヤコブに由来する(?)グループ名から察するに、こちらもC.C.M.系のグループなのでしょうか。さらっと聴いた歌詞の感じとかはあまり説法臭くなく、もっとパーソナルなものに思われました。
メンバー全員曲を書きますが、おそらくギターやピアノにフルート、ヴァイオリンも操るPeter Dergeなる人物がこのグループのブレインだったようです。 ちなみに3人とも、その後ミュージシャンとしての録音キャリアは無に等しい模様です。


さてさて、この手のマイナー盤を足を使って見つけ出すのはなかなか骨の折れる作業なのですが、たまたま安く見つかったので即購入。そしてなんと未開封シールドの状態でした。コレクターの人には怒られそうですが、迷わず親指の爪でががっと開封。ジャケットをパタパタさせると1971年から缶詰されていた空気が、なんとも甘い香りを放ちながら漂ってくるようです。

1曲目こそ売れる気満々のブラス入りファンキー・チューンですが(それでも全然聴けるナイス曲)、続くA-2「Susan」は、アコースティック・ピアノ&ギターの優しげな伴奏に、エコーのたっぷり掛かったフルート、そして甘いハーモニーが織りなす、正に"木漏れ日チューン"。Americaを彷彿とさせるメロウ・フォークA-5「Sword Of My Sorrow」、A-6「The Young Girl (Kathy's Song)」、Curt Boettcherワークスを思わせるソフトロックよりのB-1「She's Beautiful」、B-4「But It's True」、ほのかに香るアシッドなムードは、なんとなく今の耳にあってるようにも思いました。A-4「A Castle Of Sand」は、なかなか入り組んだ構成のブラス・ロックで、Blood Sweat & Tears + CSNといった趣。ラストB-5「Say What You Believe」は、メロディー感、アレンジ、折り重なるコーラス、もう完全にCSN直系ですね。良い曲です!

Cheryl Crutsinger(他の仕事は見つかりませんでした)なる人物のライナーが見開きに納められていました。はじめて彼らのハーモニーを聴いた時に、空いた口が塞がらなかった事。この作品は、この新しいグループが誇りに思うことができる傑作です。 すべての人がこのアルバムを楽しんでくれると信じているということ。
Cheryl Crutsingerが、彼らを近くで応援していた人物なのか、ちょっと雇われた筆のぱっとしない音楽ライターなのか分かりませんが、この手の当たり前に売れる事のなかったローカル盤のライナーって、いろいろ複雑な気持ちになります。とりあえず、みんな元気にしているのでしょうか。


A1 Rubies 4:01
A2 Susan 2:50
A3 Recollections Of A Lost Childhood 3:00
A4 A Castle Of Sand 2:31
A5 Sword Of My Sorrow 2:55
A6 The Young Girl (Kathy's Song) 3:16
B1 She's Beautiful 2:25
B2 The Saga Of Trail Blazin' Dave 2:46
B3 Peter's Song 2:26
B4 But It's True 4:07
B5 4:04