2019年12月16日月曜日

年間ベスト廃盤レコード2019(その1)

こんばんは。

みなさまいかがお過ごしでしょうか。
今年も早いもので、残り数週間。

僕は今年もたくさんレコードが買えて楽しい一年でした...

そんなわけで、毎年恒例ですが、今年入手した中古レコードの中で、お馴染みの定番アイテムから、よく分からないものまで、心に残ったお気に入りの作品をただただ自慢する『年間ベスト廃盤レコード』を書いてみようと思います!

今年のレコード購買遍歴は、相変わらずクラシック・ロック、ニューエイジ、実験音楽、インディー・ポップ、コンテンポラリー・ジャズと、相変わらずちまちまいろいろ手を出しておりましたが、ニューエイジもシティ・ポップも流行りすぎて高くて買えず年明け早々に離脱。メインで掘っていたのはS.S.W.盤。体系的な統計をもって、ある時代に物差しを当てて計るようなことは本当に意味が無い。とはいえ社会的な大きな流れはいつ何時にも抗えない中で、時代時代に生まれた小さな声と言いましょうか、いつしか忘れられてしまいそうな個々人としての思いが、上手くても不器用でも多くのS.S.W.盤といわれるようなレコードには詰まっているようで、やはり今でもそういった音楽に魅せられているなあと実感する1年でした。
今回も(去年は1回でサボってしまいましたが...)何回かに分けて5枚ずつ区切って、気ままな順番でご紹介出来ればと思います。




Ron Cornelius ‎– Tin Luck
Polydor ‎– PD 501
1971

マイ・フェイヴァリットS.S.W.大名盤Leonard Cohen『Songs From A Room』や、Bob Dylan『New Morning』にギタリストとして参加。サイケ・バンドWest(2ndにはなんとGary Burton「General Mojo's Well Laid Plan」カヴァー収録!)のメンバーであるRon Corneliusの唯一作。Polydorリリースということで(Polydor盤のS.S.W.なかなかアガらない気持ち分かりますよね...)、僕はノーマークで最近まで全く知らなかったのですが、レコード屋で探していると伝えると「良いレコードだよね!たまに入るよ!」と皆さん仰るので昔からのレコード・ファンの間では有名な1枚の模様。もとバンド・メイトのベーシストJoe Davisとローカル・ジャズ・ドラマーPaul Distelそして自身のギター&ピアノのみのシンプル・アンサンブルと飾り気のないピュアな歌声に心掴まれる。特に冒頭の「I've Lost My Faith In Everything But You」が大名曲。ソロ作が聴けるのがこの1枚しか無いというのは本当に惜しい。




Ron Moore – Death Defying Leap
Airborn Records – AR 7775
1978

1st、2ndはアシッド・フォーク名盤としてお馴染みのC.C.M.系S.S.W.の78年作。深過ぎるヴィヴラート・ヴォイスが印象深過ぎる「Something Lasting」を以前YouTubeのオブスキュア・サイケ・アカウントで、チェックしていてずっと探していた1枚。Emitt Rhodesにも通じる高水準のポップ・ソングを、Neil Youngを思わせるヘナい歌声で聴きたい!という昔から追い求めていた僕の欲求を充たしてくれました...



Terry Reid ‎– Seed Of Memory
ABC Records ‎– ABCD-935
1976

 NumeroのSNSアカウント「この作品がサブスクで聴けないのは人類にとっての大きな損失!」みたいな触れ込みで紹介していたはず。僕はメロウ・スワンプのリサーチをしていた際にディガー・フレンズの柴崎さんに教えてもらいました。UKで最もスワンプしているTerry Reidの名盤。電話越しの甘くて切ない別れを歌うメロウ・チューン「Faith To Arise」は、その内容も相まってヨット・ロック好きにもお勧めしたい...!



Michael Bierylo Ensemble ‎– Cloud Chorus
Inner Light Records ‎– IL-1107
1987

ミシガン出身のギタリストMichael Bieryloによる自主盤コンテンポラリー・ジャズ/ニューエイジ名作。Frank Londonのグループにも参加し、エスニック系のリード楽器を得意とするMatt Darriauがソプラノ・サックス、無名のチェロ奏者Brian Capouch(楽曲の性質もあるがDavid Darlingを思わせる!)が客演。Ralph Townerスタイルのコンテンポラリーなアコースティック・ギターから、Steve Tibettsスタイルの空間系のエフェクトを多用した漂うエレクトリック・ギターなど、ジャケットの通りECMを意識した音作り。



Townes Van Zandt ‎– High, Low And In Between
Poppy ‎– PYS-5700
1972

Father John MistyやKevin Morbyのカヴァーで知りました。ほかにもEmmylou HarrisやWillie Nelsonなど多くのミュージシャンにカヴァーされていますが、彼自身のヒットは皆無。そんな、まさにミュージシャンズ・ミュージシャンなエピソードに惹かれます。『High, Low And In Between』とは、なんとも美しいタイトル...。このアルバムから必要最低限ではありますがバンド・サウンドが導入されます(意外な所で若かりし日のLarry Carltonが参加)。楽曲の素晴らしさはもちろんですが、日本語ネイティヴにはなんとも捉えどころない、しかし非常に気になる存在。やはり日本語テキストが少なく海外の掲示板などで情報を集めていたのですが、このアルバムを制作中、現場にピック・ケースを忘れたTownesの代わりに自宅へ向かった当時の恋人がヒッチハイクの道中に殺されてしまうといういたたまれない事件があったそう。次作収録の「Snow Don't Fall」は、彼女のために書かれた唯一の楽曲。"とても人前で歌う気になれない"ということでライブで演奏されることはなかった。Townes Van Zandtに関する詳しい日本語テキストって存在するのでしょうか。もしご存知の方いらしたら教えて下さい...。


 

2019年9月15日日曜日

190915

とても悲しいニュースです。癌で闘病中だったSteve Hiettがフランスのモンペリエで亡くなりました。

昨年、僕が作ったEPで彼の撮った写真をどうしても使いたく、そして叶うならば彼がかつてミュージシャンとしてリリースした唯一のレコード『Down On The Road By The Beach』から1曲カヴァーさせてくれないかというお願いのためメールのやり取りなどしていたので、まさか!という気持ちでいっぱいです。写真を使いたいと言う話はともかく楽曲をカヴァーしたいという話にビックリしながらも喜んでくれて、完成した音源を送ったらとても気に入ってくれている様子でした。今月末に『Down On The Road By The Beach』のアナログ・リイシューと、未発表音源のリリースを控えていて、聴いたらまた彼に連絡を取ってみようと思っていた矢先で、とても驚いています。

亡くなったのは19年8月28日。夏の暮れにひっそり息を引き取ったのはなんとも彼らしいというのでしょうか。
レコード『Down On The Road By The Beach』がリリースされた当時に一緒に出版された同名の写真集をぱらぱらめくりながらレコードを聴いているのですが、雲ひとつない深いブルーが目に沁みます。彼の写真は深い色彩が印象的ですが、彼の弾くギターの音色もまた、目をつむれば、真夏の照りつく浜辺から見上げた空のように深い青や、湿気のないサラサラの砂の色、プールサイドの水色、口紅やパラソル、海辺の街の、赤や黄やエメラルド色の景色が容易に浮かび上がってきます。音楽から景色が浮かび上がるなんてよくいう話しかも知れませんが、彼の音楽の発色は本当にスペシャルで、だれの音楽とも似ていない独創的な音楽でした。そして、そんなパキッとした発色とは対照的に、レコードを聴けば聴く程、地に足がついていないというのか、ずっと水中を漂っているような、浮遊する繊細な指さばき、ナイーヴなヴォーカルの響きにどんどん引き込まれていきました。『Down On The Road By The Beach』というレコードからは本当に多くの感覚を刺激され影響を受けました。深く明るい色を放つ彼の写真や音楽を眺め聴きながら、彼の写真や音楽と彼が死んでしまったという事が、あまりにもかけ離れた事のようで、どうにも気持ちの整理のつかないままこんな時間になってしまいました。本当に、本当に美しいレコードをありがとう。